脱パワハラ!上司も部下も知っておくべき3つの定義と6つの行動類型(叱りの達人による解説)

目次

パワーハラスメント(通称パワハラ)を一言で定義

パワハラ(パワーハラスメント)とは、組織などでの地位や人間関係などの優位性を利用して、他者に嫌がらせをしたり、苦痛を与えたりすることです。暴力、言葉での侮辱、適正な業務範囲を超えた仕事の強制、逆に仕事を与えないなどの行為もあてはまります。

職場におけるパワハラは、上司から部下に対する言動という認識が一般的のようですが、実は上下関係だけにとどまりません。部下から上司、もしくは同等役職の人に対するパワハラということもあり得ます。

例えば、定義の(1)に表記されてている、『優位な立場』という表現が、ある特定の技術能力の高い人から、能力の低い人に対して行われるという意味合いです。職位や職能が高い人が、立場的に逆らえない部下・同僚はたは優越的な関係に対して、仕事の範囲を超えて、いじめや嫌がらせを行うことをパワハラと定義されます。役職の有無、年齢が高いことや社歴が長いという立場の方が、一概にパワハラ行為者とは言えず、逆もあり得るということです。

パワハラの定義(厚生労働省HPより)

厚生労働省は、職場におけるパワハラの概念について次の3つの要素を提示しています。以下の3要素をすべて満たすものがパワハラに相当するとしています。

■厚生労働省によるパワーハラスメントの定義
(1)優越的な関係にもとづいて(優位性を背景に)行われること
(2)業務の適正な範囲を超えて行われること
(3)身体的もしくは精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害すること

参考:厚生労働省|パワーハラスメントの定義について(PDF資料)

パワーハラスメントについて、厚生労働省が明確に定義しています。パワハラについての3要件とは、(1) 優越的な関係を背景に、(2) 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、(3) 就業環境を害する。こちらについてさらに詳しい解説は、叱りの達人協会 河村晴美氏が講演や研修などで行っています。2022年4月にパワハラ防止法が中小企業にも義務化され他ので、管理職のみならず、従業員様全員で知識を共有して、パワハラにならない組織を目指していきましょう。
パワーハラスメント定義(厚生労働省による3要件)

パワーハラスメントの裁判事例

昨今、従業員に対するパワハラ行為が、組織の不祥事としてメディアで大きく報じられる事例が増えてきています。

パワハラ以外にも、ハラスメントは存在する

職場のいじめや嫌がらせは、パワハラに限りません。「〇〇ハラスメント」という言葉は、パワーハラスメント以外にも数多く存在します。

■パワーハラスメント以外のハラスメント
・セクシャル・ハラスメント:性的な言動による迷惑行為や嫌がらせ
・アルコール・ハラスメント:酒類に関わる迷惑行為や嫌がらせ
・モラル・ハラスメント:精神面に対する暴力や嫌がらせ
など

これらのハラスメントは、行為によって定義や言葉が異なります。言葉こそ異なりますが、その多くは法律によってパワハラと同じく防止措置が課されているのが特徴です。

パワハラに該当する行為(6つの行動類型)と具体例

それでは、次に、パワハラに該当する行為や具体例について紹介をします。

(えっ?これがパワハラなの?)

自分では悪気はないのに、無自覚にパワハラを行っていることもあります。どのような行為がパワハラに該当するのかを知らなければ、パワハラ防止のための適切な措置を講じることはできません。

厚生労働省が提示しているパワハラの6つの行為類型を紹介します。ご自身で思い当たることがないか?自分また周囲の方の、普段の行動や言動をイメージして1つずつ確認していきましょう。

職場のパワーハラスメント6つの行動類型(パワハラにならない適切な指導の基本事例)

パワハラ行為1.身体的な攻撃

殴る・蹴る・物を投げつけるなど、いわゆる暴力を振るうことです。パワハラの中でも、もっともわかりやすい行為といえます。

パワハラ行為2.精神的な攻撃

直接身体を攻撃するのではなく、精神的な苦痛を与えるものです。相手を侮辱し、人格を否定するような行為全般が該当します。長時間にわたり執拗に叱責する、怒鳴る、周囲の人の前で威圧的な叱責をくり返す行為や、他の人も宛先に含めたメールの中で責任追及や罵倒する行為も該当します。

パワハラ行為3.人間関係の切り離し

いわゆる仲間外れのようなものです。1人だけ個室に移して仕事を与えない、職場イベントに出席させないなどがあります。このほか、挨拶や仕事のやりとりで無視をするような環境をつくり出してしまうこともあてはまります。

パワハラ行為4.過大な要求

あきらかにできそうにない仕事を労働者に強制することはパワハラに該当します。たとえば、熟練しなければできないような仕事を新人に丸投げする、物理的・時間的に無理なノルマを強要するというようなことです。また、業務上あきらかに不要なこと、私的な雑用を強要することも該当します。

パワハラ行為5.過小な要求

あきらかに本人の能力、もしくは一般的なビジネスパーソンの能力より下回る仕事だけしか与えない、あるいは仕事をまったく与えないこともパワハラに該当します。営業職の人に社内の掃除だけをさせる、お茶くみを義務的にさせるようなこともあてはまります。

パワハラ行為6.個の侵害

いわゆるプライバシーの侵害です。家族や恋人のことや信仰する宗教など業務とは無関係なことをしつこく聞くことはパワハラに該当します。また、家族や恋人について悪口をいうこともあてはまります。

休日の過ごし方についても、通常の会話の域を超えて根掘り葉掘り聞いてしまったり、職場外でも継続的に監視したりすることも問題です。このほか、知りえた個人情報を本人の了解を得ずに暴露することもパワハラに該当すると考えられます。

以上の6つです。これらは、厚生労働省が提示している6つの行動類型です。

ただし、これら6つ以外のことはパワハラではないということではありません。典型例としての提示です。これら以外も、パワハラ定義に鑑みて、「言動や行動がパワハラになっていないか?」自己内省してみましょう。

パワハラ社員の特徴5選

パワハラ問題を起こす社員には特徴があります。数多くある特徴を5つ厳選して、叱りの達人協会の叱りの達人河村晴美氏が解説しています。特徴5つのうち、1自制心が弱い。2ストレス過多。3自己中心的。4自己顕示欲が強い。5箇条に管理したがる。パワハラにならない叱り方、パワハラに関すす講演研修、コンサルティングなどの詳しい内容は、叱りの達人協会(有限会社ハートプロ)公式サイトhttps://shikarinotatsujin.com/に掲載されています。

パワハラの加害者となる可能性がある従業員(パワハラ社員)には、特徴があります。以下にあげるような特徴をもつ従業員が全員パワハラ社員になるわけではありませんが、注意は必要です。

■パワハラ社員の特徴5選
特徴1:自制心が弱い
特徴2:ストレス過多
特徴3:自己中心的
特徴4:自己顕示欲が強い
特徴5:過剰に管理したがる

1つ1つ見ていきましょう。

パワハラ社員の特徴1:自制心が弱い

嫌なことや思い通りにいかない事は誰にでもあります。だからと言って、相手に自分のマイナス感情をぶつけると、相手は不愉快です。

自分自身が思い通りにいかないことに腹を立てたり、癇癪を起こしたりしてしまうことは、自分のネガティブな感情を整えることできないということです。

日々の様々な出来事を、どのように受け止めて対応していくのか?自制心がある人は、どんなことがあろうとも自分で何とかしていきます。翻って、自制心の弱い人は、自分以外の誰か(または社会)のせいにすることで、「自分の不幸は世の中のせいである」と感じて、他者の責任に転化し、相手に当たるということです。

パワハラ社員の特徴2:ストレス過多

自分のストレスが限界に達している人は、パワハラに及んでしまうことがあります。ストレスの原因と関係あろうがなかろうが、ストレス発散のために周囲に強くあたる言動がパワハラへと発展することがあります。

いわゆる、八つ当たりです。

また、自らの健康状態に不安があったり、自身がパワハラを受けていたりして、精神的に余裕のない人、情緒不安定な人が、自分自身で対処できずに、怒りの仮面を被った不安や心配、恐れなどを発散するために、発散させやすい人へ結果的にいじめや嫌がらせをやってしまうこともあります。

合わせて読みたい:一瞬でイライラ感情を消す方法【怒りの感情AKB理論】

パワハラ社員の特徴3:自己中心的

相手の状況や心理にかまうことなく、自分の主張を通そうとする性格の人は、パワハラにつながる言動を自然にやってしまう傾向があります。そのような自己中心的な人は自分の意見や考えだけが正しいと思い込み、部下や周りの人に自分の考えだけを押し付けてしまうことがあります。

逆に相手の意見や考えには耳を傾けません。他人の考えや価値観を受け容れることができないため、権力や能力で押さえつけようとします。

パワハラ社員の特徴4:自己顕示欲が強い

自分の能力を誇示しようとする自己顕示欲が強い人も、パワハラにつながる言動を自然にやってしまう傾向があります。相手の失敗をしつこく責め立てることで、自分が高い能力をもっているという認識を植え付けようとします。能力が高い、評判が良い人にも対抗心をもちやすく、ややもすると、足を引っ張ったりする傾向があります。

パワハラ社員の特徴5:過剰に管理したがる

部下の仕事を事こまかに管理するなども、一歩間違えるとパワハラにつながる言動をしてしまう傾向があります。日に何度も報告や連絡を強要する、観察の域を超えて監視的に部下を管理してしまうことが部下の苦痛となることがあります。

実は、本人は管理しているつもりでも、実は、部下マネジメントの最重要項目である「目標達成への行動マネジメント」ができていないことに気づいていないケースが多いです。

ハラスメントが与える悪影響5選

また、職場におけるいじめや嫌がらせが日常的に行われることで、職場全体の雰囲気が悪くなることで業務効率が悪くなり、生産性の低下、また、被害者だけではなく、周囲の従業員のメンタルヘルスへの悪影響を与えてしまうこともハラスメントの特徴といえるでしょう。

場合によっては、株価の低落、退職者の増加、新卒や中途採用にも影響を与えることもあります。

■ハラスメントが与える悪影響5選
1.生産性の低下、業務効率の悪化
2.利益減少
3.退職者の増加、採用の困難
4.社会(取引先やメディア)からの評価、評判、信頼の失墜
5.従業員のメンタルヘルスの低下、エンゲージメントの悪化

無礼な態度がもたらす5つの悲劇

書籍『Think CIVILITY:「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である』は、アメリカMBAにて「礼節の科学」を研究調査された調査報告が記載されています。
著者のChristine Porath女史によると、無礼な態度によって5つのデメリットが発生すると述べています。この調査結果からも、相手を侮辱する態度、デリカシーのない態度や言動が、どれほど信頼を失墜させるかというリスクを表しています。

吉野家の元常務の性差別を含む不適切発言での炎上その後…株主総会3日前に役員研修、抗議署名2万3000超

アメリカMBAにて、礼節についての調査研究がなされた書籍。Think CIVILITY「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である。この書籍は、ハラスメントが与える悪影響についても学びが深い内容である。無礼な態度がもたらす5つの悲劇とは、①人の健康を害する②経済損失をもたらす③人の思考力や集中力が低下する④認知能力が下がる⑤人を攻撃的にさせる。この5つを見ても、マネジメントを行うリーダーは見逃せない損失であることが一目両線である。なぜトップリーダーは自制心が強いのか?その理由は、無礼な態度がどれだけ損失を出してしまうのか?その波及の大きさを予見しているからである。リーダーこそ敬意を持って相手に接する大切さを認識する必要がある。
無礼な態度がもたらす5つの悲劇:Think CIVILITY
「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である

パワハラ防止法が生まれた社会背景

ここで、そもそもパワハラ防止が改正された経緯を共有しておきましょう。

2019年5月、職場におけるいじめや嫌がらせを防止する対策として「改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」が成立し、2020年6月1日から施行されています(中小企業は2022年4月1日)。

このパワハラ防止法とは、一言でいえば「職場におけるいじめや嫌がらせを防止するための法律」です。正式名称は、労働施策総合推進法です。このパワハラ防止法が制定された背景には、都道府県労働局に寄せられる相談増加があります。近年は過度なパワハラが社会問題化し、いち早く対策に乗り出す企業も出てきています。

しかしながら、現状は職場におけるいじめや嫌がらせ(パワハラ)の相談件数は増加の一途をたどっています。
(「いじめ・嫌がらせ」の件数が引き続き最多、 「解雇」等に関する民事上の個別労働紛争が前年度より増加)

2020年度のいじめ・嫌がらせ件数が減っているのは、労働施策総合推進法が施行され(2020年6月)、同法施行以降の大企業の当該紛争に関するものは、いじめ・嫌がらせに計上していないためです。参考までに、労働施策総合推進法に関する相談件数は18,363件ありました。

職場におけるいじめや嫌がらせの増加にともなって、うつなどの精神障害をきたす人も増加傾向です。このような状況を受けて、2012年に出された厚生労働省の提言を強化して法制化し、パワハラ防止措置を事業主に義務づけることになりました。そのような背景があり、パワハラ防止法が成立しました。

このパワハラ防止法には、事業主が雇用管理上で講じるべき措置について、次の4項目が明示されています。いずれも義務となるため、経営者や総務人事部門の担当者であれば、必ず概要を把握しておきましょう。

参考資料「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況」

事業主必見!パワハラ防止のために、雇用管理上で講じるべき措置4選

ここでは、事業主の方へ【雇用管理において講じるべき措置】について、4つ掲げます。

■パワハラ防止のために、雇用管理上で講じるべき措置4選
(1)社内方針の明確化と周知・啓発
(2)適切に対処する体制整備
(3)相談者の不利益な取り扱い禁止
(4)パワハラ事案への迅速かつ適切な対応

講じるべき措置1.社内方針の明確化と周知・啓発

事業主は、職場でパワハラに該当する行為を行ってはならないことや対策の方針を明確にし、従業員に周知しなくてはなりません。また、パワハラの加害者については厳正に対処をする旨の方針、対処内容を就業規則などの文書に規定し、周知・啓発します。

従業員が理解を深められるよう、研修や社内報、就業規則などを通じ、どのような行為がパワハラにあたるのかをしっかりと啓発する必要があります。

講じるべき措置2.適切に対処する体制整備

パワハラについて従業員が相談できる体制を整備しなければなりません。社内または社外に相談窓口を設置し、窓口の担当者が雇用管理上に必要な措置がとれる仕組みをつくります。

相談窓口のない風通しの悪い企業ですと、水面下でパワハラが蔓延する可能性があります。

講じるべき措置3.相談者の不利益な取り扱い禁止

パワハラについて相談をしてきた従業員に対し、企業はそのことを理由にして解雇・異動・自宅待機・減給といった不利益な取り扱いをしてはなりません。また、パワハラの当事者(相談者・加害者)のプライバシーを保護するために必要な措置を講じる必要もあります。

講じるべき措置4.パワハラ事案への迅速かつ適切な対応

パワハラ事案が発生した際は、その事実関係を迅速かつ正確に確認しなければなりません。事実を確認した上で、被害者に配慮する措置や、加害者に対する対処を迅速に行う必要があります。また、パワハラ事案を受け、今後の再発防止に向けた対策を講じることも義務づけられています。

以上4項目の義務化よって、企業は社内のパワハラを黙認できなくなります。対策の明確化や相談体制整備、パワハラへの適切な対処、再発防止といった措置を講じることが、これまで以上に厳しく求められます。

パワハラ防止法が施行されたことにより、企業に上記のような義務が生じるようになりました。一方、多様化が進む現代社会においては、これから先ハラスメントの種類や、企業義務などが変更される可能性もゼロではありません。

そのため、「何がハラスメントにあたるのか」などを詳しく知りたい場合は、厚生労働省のホームページを確認するのがよいでしょう。

参考資料:厚生労働省
職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)

パワハラ対策・防止措置

パワハラの定義やパワハラ社員の特徴、パワハラ防止法を理解したところで、具体的な対策方法がわからなければ職場のパワハラはなくなりません。具体的なパワハラ社員への対応方法と、パワハラ防止法を前提とした防止対策を紹介します。

パワハラ社員への対応方法:基本方針3選

パワハラ社員には、どのように対応すればよいのでしょうか。パワハラに関する問題は、人事や労務管理の重要な課題のひとつです。慎重、かつ適切に対応していきましょう。対応の原則は、以下の3つです。

■パワハラ社員への対応方法:基本方針3選
1:基準は就業規則
2:事実確認をして、自覚を促す
3:企業としての人事措置をとる

パワハラ社員への対応方法1:基準は就業規則


基本的な対応は就業規則に沿って行っていきます。したがって、事前に就業規則の中にパワハラに対する措置内容を規定しておく必要があります。これはパワハラ防止法の中で、企業に義務づけられている項目です。

パワハラ社員への対応方法2:事実確認をして、自覚を促す

一方で、パワハラがあったからといって、法律上、即解雇というわけにはいきません。就業規則で明文化されていれば、企業側がこの問題に対峙する際、冷静さを保つことにも役立ちます。

パワハラ問題が発生した場合、まずは、当事者双方と周辺への慎重なヒアリングを行います。申し立てがあったからといって、すぐに加害者・被害者を決めつけないことが重要です。事実確認が第一です。

パワハラ事案への迅速かつ適切な対応は、パワハラ防止法の中で企業に義務づけられている項目です。ヒアリングをもとにして、パワハラ社員に対しては、パワハラに該当する行為に関する自覚を促す必要があります。

誰かを苦しめているということを認識して、改善に努める方向にシフトできる人もいます。また、その逆で自分の非を認めずに言い訳をする人もいるので、確かな証拠などを集めておくとよいでしょう。

パワハラ社員への対応方法3:企業としての人事措置をとる

注意した上で、どのような変化があるかを見守ります。謝罪をさせて終わりでは解決になりません。

改善がみられない場合は、就業規則に沿って人事的措置(懲戒処分や減給など)を講じていきます。就業規則に則った上で解決できない問題の場合は、解雇が認められるケースもあります。

パワハラ防止対策5選

個別のパワハラ社員に対応するだけではなく、パワハラ防止法に則って企業としてパワハラを発生させない対策を講じる必要もあります。具体的な対策例を以下に挙げます。

■パワハラ防止対策5選
1.従業員への意識の浸透
2.管理職への部下育成スキルアップの機会提供 (1on1面談スキル・叱り方研修など)
3.就業規則へ盛り込む
4.相談窓口の設置
5.ストレスチェックの実施

パワハラ防止対策1:従業員への意識の浸透

パワハラの判断は、線引きが難しいものもあります。加害者も被害者も、どのような行為がパワハラに該当するのかを、きちんと理解しておくことが必要です。この理解がないと、知らず知らずのうちに職場にパワハラが発生します。

従業員への周知・啓発は、パワハラ防止法の中で企業に義務づけられている項目です。パワハラについての理解を促す研修を実施するなどして、パワハラの防止につなげましょう。

管理職への部下育成スキルアップの機会提供 (1on1面談スキル・叱り方研修など)

パワハラか?それとも、適切な指導なのか?その線引きはなかなか難しいものです。必要以上にパワハラ問題を心配するあまり、本来であれば部下へ指導する必要があるにもかかわらず指導を見逃してしまうと、部下の成長機会が奪われてしまうこともあります。そこで、『パワハラにならない叱り方』など、管理職に対して、厳しいことを自信をもって伝えるために、叱り方研修などを実施するなど、パワハラ防止法による禁止だけでない、実践的な部下指導法の学習機会を提供することも重要です。、

合わせて読みたい:
【パワハラと言われない叱り方】感謝される部下育成方法にはコツがある
【これ言うと一発アウト!】上司向けパワハラ危険ワード6選(ハード言葉編)
【言ってはいけない】使うな危険!パワハラ危険NGワード6選(グレーゾーン編)

パワハラ防止対策3:就業規則へ盛り込む

パワハラに対する自社の方針、対処や処罰などの事項を就業規則の中できちんと規定しておきます。それを周知することによって、パワハラの抑制にもなります。事業主の方針等の明確化は、パワハラ防止法の中で企業に義務づけられている項目です。

パワハラ防止対策4:相談窓口の設置

ハラスメントの問題は、被害者が1人で抱え込み悩んでしまうことも多いようです。社内の誰もが安心して相談できる窓口や担当者を設置しておきます。

相談窓口の設置(適切に対応するために必要な体制の整備)も、パワハラ防止法の中で企業に義務づけられている項目です。早期の対応と解決によって、個人や組織のリスクを最小限に留めることが重要です。

パワハラ防止対策5:ストレスチェックの実施

労働安全衛生法でも義務化されているストレスチェックの実施も欠かせません。

厚生労働省が公開する「職場におけるメンタルヘルス対策の状況」のデータによると、仕事や職業生活に関する強い不安を感じる労働者のうち、パワハラを含む対人関係で、強いストレスを感じる労働者は3割以上に上ります。潜在的にパワハラを受けている従業員のケアを行うことで、パワハラの被害拡大をより防ぎやすくなります。

参照:職場におけるメンタルヘルス対策の状況|厚生労働省(PDF資料)

パワハラを放置するリスク厳選4つ

パワハラを放置したり、黙認したりすることは企業にとってリスクになります。どのようなリスクがあるのかを確認していきましょう。

パワハラを放置するリスク4選
リスク1:職場の雰囲気の悪化
リスク2:生産性の低下
リスク3:被害者への影響
リスク4:企業責任を問われることもある

リスク1.職場の雰囲気の悪化

パワハラの存在する組織は健全とはいえません。パワハラ社員とパワハラを受ける被害者だけの問題ではなくなります。日常的な職場でのいじめや嫌がらせは職場の雰囲気を悪くし、誰にとっても居心地がよいとはいえない環境になってしまいます。雰囲気の悪い職場では、人材は定着しません。

リスク2.生産性の低下

パワハラが発生しているということは、良好なコミュニケーションがとれていないことになります。パワハラが原因のコミュニケーション不良は、ストレスや欠勤、集中力の低下などを招きます。

仕事を円滑に進めるためには、適切なコミュニケーションが不可欠です。パワハラが原因で適切なコミュニケーションがとれていない組織の生産性は下がります。仕事が進まないことがストレスをさらに増大させ、さらなる生産性の低下をもたらし、負のスパイラルにおちいります。

リスク3.被害者への影響

パワハラが続くと、被害を受けている従業員は仕事に集中することができません。体調を崩したり、精神的な病で欠勤が増えたりすることもあります。結果的にパワハラを理由に退職を考えるようになり、企業にとっては大切な人材を失ってしまう可能性があります。

リスク4.企業責任を問われることもある

パワハラがあることを知っているにも関わらず企業が放置・黙認した場合、企業責任を問われることもあります。パワハラ防止法には罰則規定はありませんが、違反すると勧告・指導の対象になる可能性があります。場合によっては社名が公表されることもあります。

最悪のケースは、職場のパワハラが原因で従業員が自殺をしてしまうことです。そうなると、遺族から訴訟によって損害賠償責任を追及される可能性があるだけでなく、そのような企業としての問題が公になり企業イメージを落としてしまうことがあります。

パワハラ相談を従業員から受けた時の対応3選

パワハラのリスクについて確認できたところで、実際に従業員からパワハラの相談を受けた際の対応方法について解説します。これらは相談窓口の担当者だけでなく、経営者や総務人事部門の担当者も把握しておくべき内容です。基本は以下の3点です。

パワハラの相談を従業員から受けた時の対応3選
・相談内容を口外しない
・中立を保つ
・相談内容を否定したり叱責したりしない

パワハラ相談を受けた時の対応1:相談内容を口外しない

パワハラの相談を受けた際は、相談内容を外部に口外してはなりません。これはパワハラ防止のために講じるべき措置「相談者の不利益な取り扱い禁止」にあたります。

万が一、相談内容が漏れてしまった場合、犯人探しや報復などにつながることもあり、事態が泥沼化する可能性があります。パワハラ専用の相談窓口を設ける時は、機密性が保たれているかどうかを確認することが不可欠です。

パワハラ相談を受けた時の対応2:中立を保つ

パワハラの相談を受けた際は、中立を保つことが求められます。これは加害者と被害者のどちらか一方に肩入れしてしまえば、実際にパワハラがあったか否かが判断しにくくなるためです。公平に判断されなかった結果、別の被害者が生まれてしまったり、被害者と加害者の立場が逆転したりすることにもつながりかねません。

パワハラだけに限った話ではありませんが、職場における相談担当者は必ずバイアス(偏り、先入観)をもたず中立を保つことを意識しましょう。

パワハラ相談を受けた時の対応3:相談内容を否定しない・叱責しない

相談内容如何に関わらず、内容を否定したり叱責してはなりません。否定や叱責により、心身にダメージを負っている被害者を追い詰めることは、紛れもなくパワハラに該当する行為です。

また相談者が委縮してしまえば、事実関係を確認しにくくなり、パワハラの解決が困難となります。相談者には否定や叱責をせず、寄り添う形で相談を受けるのが望ましいです。

これらの基本を守ることで、問題の早期解決につながりやすくなります。以下では、パワハラ対策の実態と取り組み事例について紹介します。

実際の職場におけるパワハラ対策の実態

パワハラは企業に様々な悪影響を及ぼし、生産性や企業イメージの低下などにつながります。しかし、実態としてはパワハラをなくすための企業の取り組みはまだ充分とはいえません。

パワハラ対策の実態

厚生労働省が2020年度に実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」(調査実施者:東京海上日動リスクコンサルティング)によると、パワハラを知った後の勤務先の対応として「特に何もしなかった」は47.1%* でした。

出典:職場のハラスメントに関する実態調査報告書|厚生労働省(PDF資料)

勤務先のハラスメント予防・解決のための取組評価を従業員規模別でみると、1,000人以上の企業では「積極的に取り組んでいる」と評価する労働者が26.9%* で最も多いです。一方、「あまり取り組んでいない」の回答が一番多い企業規模は100~299人以下の企業で25.8%* 、次いで99人以下の企業で22.8%* でした。

出典:職場のハラスメントに関する実態調査報告書|厚生労働省(PDF資料)

従業員規模が小さいほど、ハラスメント予防・解決のための取組評価は下がっています(労働者による評価)。とはいえ、中小企業も2022年4月1日からパワハラ防止法が施行されるため、早めの対策が求められます。

パワハラ対策の取り組み事例

最後に、パワハラ対策を講じている企業の取り組みを紹介します。

パワハラ対策の取り組み事例:サービス業A社(従業員数:約30名)

BtoB事業を展開する老舗企業のA社は、小さな組織ながら以下のような取り組みを実施しています。

  • トップから「パワハラを問題視する。放置しない」というメッセージを発信
  • 全従業員を対象にしたパワハラ防止研修の実施
  • 社会保険労務士の監修のもと、就業規則を改正
  • 社外電話相談と社内窓口を設置

パワハラ対策の取り組み事例:運輸業B社(従業員数:約220名)

運輸業B社では、管理職と一般社員のハラスメントに対する正しい認識をもつため、以下のような取り組みを実施しています。

  • 管理職を対象にしたハラスメント防止研修を実施(1年おき3回)
  • どのような言動がハラスメントになるのかを知るための一般社員向け研修の実施
  • ハラスメント防止規定を作成し、ハラスメントに該当する言動を定義
  • 従業員一人ひとりにハラスメント防止に関する小冊子を配布(チェックリストの読み合わせを実施)
  • 6ヶ月に一度ハラスメント委員会を開催。直近の相談内容の分析・対策検討

パワハラ対策の取り組み事例:建設業C社(従業員数:約370名)

建設業C社では、トップがコンプライアンスを企業経営の根幹と位置づけ、ハラスメントに対して強い姿勢で取り組んでいます。

  • 具体例を盛り込んだパワハラ防止規定を作成し、従業員が自由に閲覧できる電子掲示板に掲載
  • 毎年2回、外部講師によるコンプライアンス研修を実施(全従業員が対象)
  • 研修後にアンケートを実施し、吸い上げた意見について社内で検討・対応
  • パワハラに特化した社内研修を随時実施
  • 入社3年以内の若手に対し、毎年アンケートとヒアリングを実施

参考:職場のパワーハラスメント対策取組好事例集|厚生労働省(PDF資料)

パワハラ対策についてのワンストップ基本知識の総まとめ

次の3つの要素をすべて満たすものが、職場におけるパワハラです。

■パワーハラスメントの定義(厚生労働省)
(1)優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
(2)業務の適正な範囲を超えて行われること
(3)身体的もしくは精神的な苦痛を与えること

■代表的なパワハラの6つの行為類型
・身体的な攻撃
・精神的な攻撃
・人間関係の切り離し
・過大な要求
・過小な要求
・個の侵害

■パワハラ社員の主な特徴5選
(1)自制心がない
(2)ストレス過多
(3)自己中心的
(4)自己顕示欲が強い
(5)過剰に管理したがる

■パワハラ防止法による企業への4つの措置
・社内方針の明確化と周知
・啓発 適切に対処する体制整備
・相談者の不利益な取り扱い禁止
・パワハラ事案への迅速
・適切な対応

■具体的なパワハラ防止対策例
・従業員への意識の浸透のための講習
・管理職への正しい部下指導研修の実施(コーチング、1on1面談、叱り方など)
・就業規則へ盛り込む
・相談窓口の設置
・従業員へのストレスチェックの実施
・従業員へのエンゲージメントの調査

■従業員からハラスメント相談を受けた時の基本対応3選
・相談内容を口外しない
・中立を保つ
・相談内容を否定したり叱責したりしない

本コラムでは、パワハラの定義からパワハラ防止法の概要、企業でパワハラを防ぐ方法について詳しく紹介しました。パワハラは、組織全体に悪影響を及ぼします。よって、パワハラの相談を受けたら速やかに調査を実施し、被害者のケアや加害者の処分を適切に行うことが大切です。

現実的には、企業ひいては社会からパワハラを完全になくすことは難しいでしょう。とはいえ、パワハラを未然に防ぐための施策はどの企業でも実施できます。

就業規則の見直しや従業員への周知・啓発を強化、従業員のメンタルヘルス対応をして、パワハラのない労働環境を目指しましょう。

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