パワハラ回避の境界線:「理詰めが反発を生む」を「成長」に変える信頼ベースの叱り方

パワハラ回避の境界線:「理詰めが反発を生む」を「成長」に変える信頼ベースの叱り方

「指導のつもりだったのに、パワハラと言われた……」そんな経験はありませんか?

管理職としての責任を果たそうとした結果、部下を追い詰めてしまうことは珍しくありません。

「相手のため」という善意が、時として相手を傷つける結果になることもあるのです。では、指導とパワハラの境界線はどこにあるのでしょうか。

本記事では、パワハラの具体的な定義をふまえて、多くの管理職が陥りがちな問題点、実際の事例、そして「叱りの達人協会」が提唱する「信頼残高」を軸とした、指導効果を最大化するための「うまい叱り方」の実践的なノウハウを解説します。

意図的に、パワハラと言われないためのリスクマネジメントの仕込みをしよう


多くの管理職が陥りがちな3つの「指導のワナ」(問題点)

なぜ、あなたの話は相手に伝わらないのか?

その答えには、明確な理由があります。
管理職の皆様が「良かれ」と思って行った指導が、意図せずパワハラと受け取られてしまう背景には、共通する3つの問題点があります。
これらの問題は、すべて「信頼残高」がゼロ、あるいはマイナスの状態で行われることに起因します。

1. 信頼残高の欠如:指導に「感謝・ねぎらい・リスペクト」がない

最も根本的な問題は、普段のコミュニケーションに「感謝・ねぎらい・リスペクト」といった信頼を積み重ねる要素がないことです。

パワハラ
 指導の目的が攻撃や支配の比重が高い。「感謝・ねぎらい・リスペクト」の要素が欠如している

従来の指導
 一見正論に感じられるが、業務上の正しさ(理詰め)のみに終始し、相手の存在への敬意が感じられない
 よって、伝えた(つもり)なのに、伝わっていない現実を突きつけられる

普段のコミュニケーションにて、「感謝・ねぎらい・リスペクト」(叱りの達人協会では「仕込み」と言います)がない状態で厳しいフィードバックをすると、部下は「普段何も認めてくれない上司からの攻撃だ」と感じ、正論でもモヤッと反発心が生まれてしまうのです。


Q:あなたの言葉が届いていない原因とは何か?
A:あなたが、相手へ敬意(リスペクト)を伝える言葉と行動が足りないから

2. 目的と手段の混同:「相手のため」が「感情の吐露」になっている

指導の目的が「部下の成長」ではなく、管理職自身のイライラや不安の解消(感情の吐露)になってしまいがちです。信頼関係がない状態では、この感情の吐露が高圧的な態度となり、「攻撃された」と受け取られます。

または、表面上はおだやかに、またはポーカーフェイスで、口では、「部下の成長のため」と言っているものの、
心の中は、(しっかりしろよ)(何度も言わせるな)(ったく使えないなあ…)など、相手への失望感と見下しが伝わっていることも多々あります。

部下メンバー自身はどう感じているのでしょうか?
(どうせ、デキないヤツだ)(能力低いなあ…)と思ってるんでしょ?と、見下し感情で接してくる相手の心の中は透けて見えるんですよね。

何を言っているのかではなく、どんな心の状態で言っているのか?が伝わる

3. 個人の「能力」と「人格」を混同している

指導は、改善すべき「行為」や「スキル」に対して行うべきです。しかし、人格や能力を否定するような言葉(「なぜこんな簡単なことができない」「君は向いていない」など)を用いることは、指導の範疇を超え、信頼残高を瞬時に底なしに減らします。


📢 指導とパワハラを分ける3つの事例

これらの問題点が、実際の職場でどのように「パワハラ」と受け止められるのか、具体的な事例を通じて境界線を見ていきましょう。

状況信頼残高ゼロでの従来の指導(反発を生む指導)信頼残高がある場合の「うまい叱り方」
ミスを指摘するとき「また同じミスか。前にも言っただろ。なぜメモを取らないんだ。」(過去のミスを蒸し返す(仕込み:日頃から感謝・リスペクトがある)「〇〇さん、一旦席を外そう。この報告書の数値がA社に送るには不十分だ。いつも迅速な対応には感謝しているよ。だからこそ、今回は〇〇という基準でデータ補強をお願いしたい。」(ねぎらいと具体的な行動への指示
目標達成を迫るとき「目標を達成できないなら、今月はお前が悪い。会社に貢献できないのならば、ここにいる意味や価値、責任を果たす観点で、自分で考えてみろ。」(人格否定・退職の強要(仕込み:日頃からリスペクト・期待を伝えている)「現状は、目標達成には厳しい状況だ。だが、君の粘り強さは前期で発揮してくれたと思っているよ。だからこそ、最後までやりきってほしいと思ってるんだ。ここであきらめる君じゃないと思ってる。だから、現状の課題を洗い出し、明日朝までにこの3点について解決策を提案してほしい。」(リスペクトと信頼に基づく指示
育成・教育時「お前は本当に飲み込みが悪い。使えない。他の奴の足を引っ張るな。」と人前で叱責する。(精神的な攻撃・衆人環視での叱責(仕込み:日頃から挑戦を認め、ねぎらいがある)「少し話せるか。この業務は君のスキルアップに不可欠だ。だから君に頼んだんだよ。少し難しく感じてるかもしれないね。ただ、この前のプロジェクトでの〇〇という頑張りは見ていた。期待を込めて、まずはこの専門書を読んでみて。または、社内の経験者にヒアリングなどして教えてもらうことだってできるんだよ。」(ねぎらいと成長支援

指導よりも上のレベル:上司のリスクマネジメントとなる「うまい叱り方」

「叱りの達人協会」では、指導の効力を高め、ハラスメントリスクを回避するための鍵は、「普段のコミュニケーション=仕込み」にあると提唱しています。

【原理原則】叱る前の「信頼残高」を積み上げよ

  • 信頼残高とは、日々の感謝、ねぎらい、リスペクトの積み重ねです。
  • この残高があるからこそ、厳しいフィードバック(叱り)が「攻撃」ではなく「期待」として伝わり、部下の反発心(モヤモヤ)を防ぐことができます。
  • 信頼残高がないといきなり「負債」になる:いざというときに厳しい指導をしても、普段の仕込みがないと「いきなり理詰めで責められた」と感じられ、部下のモチベーションは一気にマイナスとなります。これは、上司にとって最大のリスクマネジメントの失敗です。

✅ 部下を自ら動かす「うまい叱り方」に変える3つの実践的解決策

この原理原則に基づき、日々のコミュニケーションで「信頼残高」を積み重ねていく具体的な方法を解説します。

1. 叱る前に「深呼吸」と「感謝・ねぎらいの一言」を徹底する

問題行動に直面したとき、反射的に感情的な言葉を出すことを防ぎ、必ず感謝とねぎらいから入ります。

思わず、怒りが暴走しそうになったときの急ブレーキ(気づいて、止まって、深呼吸)

1,深呼吸して、間を置く:感情の暴走を防ぎ、「今、自分は指導の目的を果たす」と再認識する
2,冒頭で信頼の仕込みを発動:「〇〇さん、いつも残業してくれてありがとう(感謝)。今回の件は、その頑張りを活かすためにも、少し話そう。」と、まず相手の存在や努力を承認する

2. 「未来志向」と「リスペクト」を込めたフィードバックに徹底する

過去の失敗を責めるのではなく、「次にどうすれば成功するか」に焦点を当て、相手の能力へのリスペクトを込めます。

行動→2影響→3期待の構造で伝える

1,行動の指摘:「〇〇の報告書のデータが不足していた」
2,影響の明言:「このままでは顧客の誤解を招くリスクがある」
3,リスペクトと期待:「君なら、この部分を正確に分析できる能力があると信じている。今後はチェックリストAを使って、データが揃っているか確認してほしい。」

3. 「他メンバーがいない場所」「客観的事実」「指導の意図目的」の3要素を意識する

相手からの信頼を担保するためには、他メンバーがいない場所で、客観的な事実に基づいて行うことを徹底し、さらに「指導する意図目的」を明確に伝えます。

相手の心が閉じないための叱り方3要件

1,人前は避ける(他メンバーがいない場所)
2,客観的な事実を示す(思い込み、先入観の排除)
3,指導する意図目的を伝える(このレベルで成長停滞はもったいない、もっと伸びてほしい等、ポジティブな理由を伝える)

指導の意図目的を言語化
「これは、君が今後より大きな仕事で活躍するために必要なフィードバックだ。」と、相手の成長と将来への期待が指導の目的であることを伝え、指導にリスペクトの意図を込めます。

まとめ

指導とパワハラの境界線は、「業務上の必要性」と「適切な手段」に加え、「信頼残高があるかどうか」で決まります。

「相手のため」という善意を、部下の反発心を招くことなく、成長に繋がる行動変容に結びつける。それこそが、管理職の皆様に求められる「叱りの達人」としての真のスキルです。

日々の「感謝・ねぎらい・リスペクト」の仕込みこそ、上司の皆様の最大のリスクマネジメントです。ぜひ、今日から実践し、部下との信頼関係を深めながら、組織全体の成長を実現していきましょう。

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