人間国宝の育成の流儀:ダメ出しするけど、これだけは絶対しない掟とは

目次

ジャパネットたかた 高田明氏も参考にする「花伝書」

能楽を大成した世阿弥による「花伝書」は、ジャパネットたかたの創業者の高田明氏が何度も何度も読み込んでビジネスに活用したと仰っています。 確かに、能楽堂には魅せる技が随所に発見できます。 また、PRや人材育成についても現代にも通じる奥義が密やかに記されています。 さて、実はわたくし河村晴美は、一時期、お能を習っていました。 (実は、その前は狂言も習っていた時期があります) お稽古は、大阪市内にある大槻能楽堂。 そこには、人間国宝の大槻文蔵先生がいらっしゃいます。 私がお稽古をつけて下さっていた師匠は、文蔵先生のお弟子さんです。 あるとき、私の師匠へ文蔵先生のお稽古について聞いてみました。 「ダメは明確に指摘されるが、どうしたら良いかは明示されない」 えっ??? 改善策は教えてもらえないのですか?

なぜ、人間国宝はダメ出しだけなのか?

ダメははっきり言う。 しかし、改善策の提示はしない。 ビジネスにおいては、ダメ出しと改善策はセットにしたほうが良いと言われます。 と言うのも、ダメ出しばかりだと、部下は 「じゃあ、どうしたらいいの?」 理由は、行動停止してしまうからです。

ティーチングとコーチングのちがい

ティーチング

【前提条件】 初めてなので、やり方を知らない
・やり方、方法、手段を教える
・対象者:未経験者向け
・効果:新入社員研修など、まずは型を身につけさせることで、一定レベルが習得できる。
・ 本人も迷わないので自信がつく
コーチング

【前提条件】 1回以上やったことがある。または似たような体験も含める。
・質問で引き出す
・対象者:経験者向け(前回が失敗していても良い)
・質問:「どうやったらいいと思う?」
・効果:自分の中に経験があることが自覚できる。自ら考え、実行策を考えたことは自己効力感が高まる。自分で決めたことで責任感が強まる。自主自立精神が高まる。
いずれも、上司と部下で、具体的な改善行動共有して、部下が実行します。 しかし、お能の世界では、師匠は改善行動を引き出す関わり方はしないのです。 まして、ダメ出ししても、改善行動を教えないのです。

なぜ、ダメ出しだけなのか? 改善行動は教えないのか?

それは、答えを教えるとそれ以上が出てこないから。 師匠が「こうするんだ」と言うと、どうしたって弟子はその通りにします。 しかし、それでは弟子本人は自己突破できないのです。 自分で殻を破り、自分の芸を見つける。 師匠が明示する通りでは、ブレイクスルーにならないのです。 そして、師匠の頭の中のイメージをを超えるアウトプットは出てこないのです。 エヴァンゲリオンの生みの親である庵野秀明氏が、NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」で言っていました。 「ボクが答えを言ってしまうとそれ以上のものが出てこないでしょ」 真のクリエイターは、自分の頭の中を超える創造物をお客様へ見せたい。だから、チームの力を信じて結晶化する。 答えを示すとそれ以上が出てこない。
「超える」ために、あえて「答え」を示さない
番組では、スタッフの方のインタビューもありました。 スタッフも相当な負荷がかかるし、悩んでいました。 「こうなんだ!って庵野さんが示してくれたら楽なんです。でも、それを敢えてしない。庵野さん自身が苦しんでいることを感じてます」 教えることは楽です。教えないことは、意地悪なのではありません。 むしろ、苦しみ辛い。部下も上司も同じ。 この共有をお互いに理解することで、共感し信頼が高まるのです。

スキルを身につけるシンプルな方法:守破離

物事を身につけるためのシンプルな方法として、守破離があります。 ✅物事を習得する守破離とは
守:型を守る                                        (モデリング)
破:型を改善する                                  (アレンジ)
離:型から離れて自分の独自性を出す    (クリエイト)
カタカナは、わたくし河村がビジネスの師匠に教えてもらいました。 「あーだ、こーだ」師匠が口を挟むのではなく、弟子本人が気づき体得していくことを見守る。 こういうスタンスなのです。

人材育成は長期的視点に立たないと失敗する

人は、一朝一夕には育ちません。 今日伝えたことが、部下が経験値が上がったとき、何十年も経った時に「あの時師匠が言ったことは、こう言う意味だったのか!?」と気付くことはたくさんあります。 自分でダメ出しして、解決策にきづくことは、最強です。 ただし、これはほとんどの人はできません。 なぜか? ビジネスにおいても、子育てにおいても、時間に余裕が無いために「待ってられない」からです。

人材育成におけるビジネスと芸のちがい

人材育成において、ビジネスと芸事のちがいとは何でしょうか? それは、期限があるかどうか? 芸能は、一生をかけてその道を究めていきます。 なので、ダメ出しされて、答えを教えられなくても良いのです。 一生をかけて答えを探すのですから。 しかし、ビジネスにおいてはどうでしょうか? 仕事には期限があります。 期限までに納品、完遂しなければいけません。 このちがいを上司は認識する必要があります。 部下に、いつまでにこの仕事を達成、完遂してもらうのか? 期限から逆算して、部下育成をしなければいけないのです。 そもそも、芸事とビジネスは背景が異なっているのです。 芸事は、師匠は背中を見て黙して語らずで良いのです。 見せて、真似させて体で覚えさせる教え方です。 ビジネスでも同じ方法をとるのであれば、部下が気づくタイミングを待ってあげなければいけないのです。
教えないことと、猶予期間(モラトリアム)はワンセット

本当の師匠は自分を超える弟子を育てる

答えを教えて、その通りさせるのか? それとも、あえて答えを教えずに、本人に悩みながら模索させるのか? どちらが良いのでしょうか? それは、ケースバイケースです。 初心者には、まずは型を教えることが効率が良いです。 しかし、いつまでもそうやっていると、行動はしますが思考は停止してしまいます。 「どうやったらもっと上手くいくか?」 試行錯誤して、全く新しい方法を発見する。 試みと模索が、新しい方法を生み出します。 それが、進化です。 師匠の生きた時代と、弟子が生きる時代は違います。 上司の生きた時代と、部下が生きる時代は、社会背景が異なります。 なので、成功法が異なるのは当たり前です。 上司の成功談は、あくまでも参考資料。 部下そして上司も、答えの無い時代を歩むには、今日の成功をあっさり捨てて、ゼロベースで新しい方法を模索していかないと、時代に取り残されてしまいます。 それを1300年前の世阿弥が看破していました。 先人に学び、今の自分を否定する 上司も部下も、共に知恵を磨き合うことが強い組織の秘訣です。 『叱るとは高抽象の気づかい』 パワハラ対策専門家 河村晴美
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