京都でお能を鑑賞して気づいた「本物の仕事美学」〜高い基準で人を育てるリーダーシップ論〜

京都観世会館「喜右衛門の会」でお能を鑑賞。700年の歴史を誇る伝統芸能の空間で感じたのは、至高のマインドフルネスとプロとしての圧倒的な基準値でした。人を育てる際、モチベーションを上げるのではなく「自らの背中で高い基準を示す」仕事の美学をお届けします。このコラムは叱りの達人協会の公式サイトに掲載されている、執筆者は河村晴美氏によるコラムです。

祇園祭の熱気がまだ残る夏の京都。
外気は37度を超える灼熱の太陽が照りつけていましたが、一歩その足を踏み入れると、そこにはひんやりとした神々しい空気が満ちていました。

先日、京都観世会館にて催された「第一回 喜右衛門の会」にお伺いし、700年以上の歴史を誇る世界最古の舞台芸術「お能」を拝見してまいりました。

ほんとうに素晴らしいものに触れたとき、人の心は胸が熱くなると同時に、澄み切った清々しい風が吹き抜けるような感覚を覚えます。

今回は、この至高の舞台を通して私が感じた「プロフェッショナルとしての美学」「人を育てる・引き上げる本質」について、ブログでお届けいたします。

目次

言葉を「理解する」を超えた場所にあるもの

京都・岡崎の平安神宮すぐそばにある、京都観世会館です。

今回拝見した演目は、誠に豪華なものでした。

  • 能『屋島』 シテ:林喜右衛門
  • 狂言『鳴子遣子』 茂山逸平
  • 仕舞『實盛』 観世清和
  • 能『正尊』 シテ:林喜右衛門

……と、ここで少し白状いたしますと、実はわたくし、地謡やセリフの細かな言葉まで完璧に聞き取れているわけではありません(笑)。ストーリーの詳細も、完璧に理解しているとは言い難い素人でございます。

それにもかかわらず、なぜこれほどまでに深く心を引き寄せられるのか。 そこには、現代のビジネスや人材育成にも通じる3つの圧倒的な魅力がありました。

700年の歴史が魅せる「3つの美学」

① 空間を生み出す「没入感」(ハードの美学)

京都観世会館「喜右衛門の会」でお能を鑑賞。700年の歴史を誇る伝統芸能の空間で感じたのは、至高のマインドフルネスとプロとしての圧倒的な基準値でした。人を育てる際、モチベーションを上げるのではなく「自らの背中で高い基準を示す」仕事の美学をお届けします。このコラムは叱りの達人協会の公式サイトに掲載されている、執筆者は河村晴美氏によるコラムです。


能楽堂には決まった建築様式があります。
舞台奥の鏡板に描かれた「影向(ようごう)の松」は神の依代(よりしろ)であり、橋懸(はしがかり)には本物の松が3本。
足を踏み入れればそこはまるで神社のような聖域であり、一瞬で日常を切り離して舞台へ引き込む圧倒的な「没入の空間」が完成されています。

② 一回性に命を懸ける「一座建立」(ソフトの美学)

世阿弥が『風姿花伝』で説いた教えの一つに「一座建立(いちざこんりゅう)」があります。
演者と観客がその日、その時、その場でしか生み出せない一つの空気感を作り上げること。


プレゼンや商談、採用面接など、現代のビジネスパーソンにとっても「ここ一番の勝負所」で実力を発揮し、強運を引き寄せるための心の鍛錬として、深く学びになります。

③ 自身の基準値を引き上げる「精神の調律」(本物の醍醐味)

シテ、ワキ、地謡、そして笛や太鼓……檜舞台の上に立つ皆さまの集中力は、まさに圧巻の一言です。

テレビなどの画面越しでは決して伝わらない、演者の皆さまの「無我夢中の脳波」が会場全体に波及し、観客も含めた空間全体が一つの大きな生命体のように調律されていく感覚

詳細な情報や解釈を超えて、演者の研ぎ澄まされた精神性に自らの心を同調させていく
——これこそが、700年の歴史に裏打ちされた本物による「至高のマインドフルネス」なのだと実感いたしました。

「モチベーションを上げる」は幻想。背中で示す「高い基準」

この至高の時間を過ごす中で、私の心に深く残った確信があります。

指導者やリーダーの立場にいると、「どうすれば部下のモチベーションを上げられるか?」と思い悩む声をよく耳にします。
しかし、「相手のモチベーションを外から上げようとする」というのは、実は指導者の幻想なのかもしれません。

人を動かす極意とは、高い基準を示すこと

具体(スキルややり方)を示すには、手元を見せること
抽象(在り方や美学)を示すには、背中を見せること

お能の舞台に立つ演者の方々は、「観客を盛り上げよう」「やる気を出させよう」などと媚びたり鼓舞したりはしません。ただただ、自らの技と精神を極限まで高め、檜舞台の上で「圧倒的に高い基準」を背中で示しているだけです。

その妥協のない姿、研ぎ澄まされた存在感に触れたとき、観る側は自然と襟を正し、「自分もこうありたい」「もっと高い次元を目指したい」と心が引き上げられます。

相手を言葉で奮い立たせようとする前に、まずは自分自身が「高い基準」を生きること。
自らの姿勢(背中)によって周囲の精神性を静かに調律していくこと。

言葉で教え込むのではなく、圧倒的な基準値を自ら体現して見せることこそが、真の意味で人の心を動かし、引き上げる唯一の道なのだと、お能の舞台が教えてくれました。

おわりに

お能を観るということは、私にとって「心を静かに整え、自らの基準値を再設定する時間」です。

「難しそう」「知識がないから」と躊躇されている方にこそ、知っていただきたいのは、お能はわたくしのような素人をも実に深く、広い心で包み込んでくださるということです☺️

日常の喧騒を離れ、静謐な神気に身を委ねる時間を、ぜひ一度体験されてみてはいかがでしょうか。

【公演情報】

  • 第一回 喜右衛門の会
  • 主催:林能楽会(十四世 林喜右衛門)
  • 於:京都観世会館

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