怒られてないのに「上司が怖い」原因と対策|「怒られた」被害者意識を卒業する心の整理術

怒られてないのに「上司が怖い」原因と対策|「怒られた」被害者意識を卒業する心の整理術について、パワハラ予防の専門家であり、NHKクローズアップ現代にも出演した叱りの達人河村晴美氏による解説です

「ちょっと後で話せる?」

上司からそう声をかけられた瞬間、心臓がドクッと跳ねて、嫌な汗がじわっと出てくる。
「何かミスしたかな…」「あの資料の件で怒られるのかも…」と、頭の中で最悪のシナリオがグルグル回り出す。

実際にはまだ何も起きていないし、相手は怒ってもいない。それなのに、なぜか怖くてたまらなくなる。

実は今、世の中にこうした「怒られていないのに、勝手に『怒られた』と感じて怯えてしまう人」がとても増えています。

なぜ、私たちは事実ではないことで、ここまでビクビクしてしまうのでしょうか?
今回は、27歳の会社員・タクミくんのストーリーを通して、その原因と、心がフッと軽くなる「心の整理術」を解説します。

目次

部長の「腕組み」に怯えていたタクミくんの物語

都内のIT企業で働くタクミくん(27歳)は、真面目で仕事も丁寧。周囲からの評価も決して悪くありません。
しかし彼には、誰にも言えない悩みがありました。

それは、「上司から怒られていないのに、怖くなってしまう」ということでした。

ある日の会議でのことです。
タクミくんは数日前から完璧に準備したプロジェクトの報告をしていました。
発表の途中、ふと前を見ると、部長が険しい顔をして「腕」を組んだのです。

その瞬間、タクミくんの心臓は飛び出そうになりました。
「まずい、説明が悪かったんだ。納得いっていないんだ…!」

不安で頭が真っ白になりながらも、なんとか発表を終えたタクミくん。
すると会議終了後、部長は笑顔でこう言いました。

「森田くん、今日の資料、すごく分かりやすかったよ!」

拍子抜けしたタクミくんが、思い切って「さっき腕を組まれていたので、ダメだったのかと不安でした」と伝えてみると、部長はポカンとして答えました。
「ああ、ごめんごめん! ちょっと肩が凝っていてね」

タクミくんを恐怖のどん底に突き落とした部長の腕組みは、ただの「肩こり」だったのです。

なぜ「上司」をこれほど怖く感じるのか?3つの心理学的メカニズム

タクミくんのように、実害がないにもかかわらず上司の一挙手一投足に怯えてしまうのは、決してあなたの心が弱いからではありません。
人間の脳に備わった「3つの心理学的なメカニズム」が働いているからです。

心理学①: 生き残るために脳が仕掛ける「ネガティビティバイアス」

私たちの脳は、数万年前の原始時代から続く「良い出来事よりも、悪い出来事(危険)を約3倍強く記憶し、警戒する」という標準装備を持っています。これを心理学で「ネガティビティバイアス」と呼びます。

野生時代、草むらが揺れたときに「ただの風だろう」と楽観視した人は猛獣に食べられてしまいました。「猛獣かもしれない!」と最悪の想定をして逃げた人だけが生き残り、そのDNAが私たち現代人にも引き継がれています。 つまり、上司からの「あとで話せる?」に対し、脳が勝手に「怒られる!」とアラートを鳴らすのは、あなたを危険から守るための正常な防衛システム(生き残るためのシステム)なのです。

心理学② :過去の記憶が作った心の設計図「スキーマ」

心理学では、物事をどう解釈するかを決める心のフィルターを「スキーマ(認知的スキーマ)」と呼びます。
特に子供の頃、厳格な環境で「失敗してはいけない」「期待に応えなければ価値がない」と感じながら育つと、心の中に【失敗=存在の危機】という強固なスキーマが形成されます。

大人になって社会に出たとき、脳はこの古い設計図をそのまま使ってしまいます。
その結果、「上司(目上の権威者)」のちょっとした不機嫌や沈黙を、幼少期に恐れていた「拒絶や否定の危機」と重ね合わせてしまい、過剰な恐怖を抱くようになるのです。

心理学③ :他人の目を過剰に意識する「スポットライト効果」

アメリカの大学などの研究で、人間は「自分が思っている以上に、他人は自分に注目していない」ということが実証されています。これを「スポットライト効果」と言います。

実験では、学生に派手なTシャツを着せて教室に入らせたところ、本人は「みんなに見られている」と強く意識したものの、実際にそのTシャツを覚えていた周囲の人は予想の半分以下でした。 不安が強い人は、このスポットライトが常に自分に当たっているように錯覚するため、上司の「ため息」や「無言」をすべて「自分が原因なのではないか」「自分が怒られているのではないか」と結びつけて捉えてしまうのです。

現実ではなく「脳の予測」に苦しめられている

心理学のデータでは、「人間が心配していることの約85%は実際には起こらない」ことが分かっています。
さらに、残りの15%の実際に起きた問題のうち、約8割は自力で解決できるか、大した事態にはならないレベルのものです。

つまり、私たちが本当に恐れているのは「目の前の上司」という現実ではなく、ネガティビティバイアスと過去のスキーマが作り出した「脳の予測(幻の映画)」なのです。

タクミくんの頭の中では、「部長の腕組み=怒っている・ダメ出し」という映画が上映されていましたが、実際の現実は「ただ肩が凝っていただけ」でした。
「怒られた」という被害者意識の正体は、この脳の過剰防衛システムが暴走している状態と言えます。

「怒られた」という被害者意識を卒業する心の整理術

「怖がるのをやめよう」と無理にエセポジティブ(ポジティブシンキング)になる必要はありません。
湧き上がる恐怖を力づくで抑え込むのも逆効果です。

大切なのは、感情に蓋をすることではなく、「その感情は、本当に事実に基づいているかな?」と一歩引いて、事実を確認する知性です。

タクミくんはその後、不安になったときにノートに「予想」と「結果」を書き出す実験を始めました。


ノートに書き出す=ジャーナリングをやってみた

上司からの「あとで話せる?」

【脳の予想】絶対に怒られる、ミスを責められる
【実際の事実】「来期のプロジェクトを任せるよ」という期待の相談だった

メールの返信が半日こない

【脳の予想】嫌われた、怒らせた
【実際の事実】相手が出張中で、ただ忙しかっただけ

これを何度も繰り返すうちに、タクミくんの脳は学習していきました。
「あ、また最悪の未来を予測しているな。底にあるのは脳の過剰防衛だな。よし、まずは現実を確かめよう」

相変わらず上司に呼ばれるとドキッとします。
たしかに、不安がゼロになったわけではありません。
でも、タクミくんは今、自分の感情の暴走に振り回されなくなりました。

最後に:あなたの心が弱いわけではない

怒られていないのに「上司が怖い」と感じてしまうのは、あなたの心が弱いからでも、性格が悪いからでもありません。
あなたの脳が、あなたを守ろうとして一生懸命に働いてくれている「脳の標準装備」です。
ただ、ちょっとだけ心配性なだけ。

次に心がザワッとしたときは、深く息を吐いて、心の中で自分にこう問いかけてみてください。

「今感じている恐怖の『証拠』はどこにある?」
「これは現実? それとも、脳が上映している映画(予測)かな?」

現実は、あなたが頭の中で想像しているよりも、ずっと優しくて安全です。
自分の心のフィルターのクセに気づくだけで、明日からのオフィスで見える景色がガラリと変わります。

「勝手に怒られた気分になる」のを卒業して、もっと楽に、自分らしく働ける一歩を一緒に踏み出してみませんか?

メンタルヘルス、ストレスマネジメント等の講演研修コンサルティングのお問合せは、こちらへお待ちしております。

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